新宿ツバメ亭
六「物知り顔してもったいぶらずに早く言えよ」
八「おまえも知ってるとおり、ツバメって言うやつは、夏の初めに南の方からやって来ていつも使ってる軒下の巣に住み着いて、卵を生んで雛がかえって、秋口に雛が飛べるようになるころには連れだって南の方に飛んでいくのよ。かといって奴らは地図を持っているわけでもないし、磁石を持っているわけでもないんだぜ。どうして方向を間違えないのかが大きな謎よ。それだけじゃあねえ翌年にはまた同じ巣に帰ってくるんだぜ。一体何キロ往復するのやら何処で宿を取っているのかさっぱり解らないんだぜ。」
六「そいじゃあ、お前ツバメは海の上に巣を作っているのかい。それに何処で飯を食うのかな。海の上じゃあ蚊だって居るめえ。」
八「そんなことあるわけないじゃねえが、そこがツバメの偉いところさ。南に行く船があると、船の帆柱に一寸止まって一休みさ。それからまた気合いを入れて南に行くのさ。」
六「中には、北へ行く船に止まって逆戻りするやつなんかは居ないのかい。」
八「そんなお前のような間抜けなツバメは居ないだろうよ。」