新宿ツバメ亭

新宿ツバメ亭

大工の八と左官の熊5

「熊おめえ、大層、立派なことをやったもんだな」

「日頃、ご贔屓にあずかっている大旦那だ。ほっとくわけには、いかねえだろう。」

「それでこの話と、ツバメの巣はどう言うつながりがあるんだい」
  だからしっかり聞きねえ

「ここからが、大事な話よ!竹庵先生の言うにはな、大旦那は、お年のせいで足腰関節、体全体が弱ってると言うんだ。そんなときにはとても滋養のあるいい物があるからと言ってすすめられたのが、ツバメの巣さ。俺が言ってるツバメの巣てえ物は、おめえの長屋の軒下に巣くっているツバメの巣とは訳が違うんだぜ。 美味くて体に良くておまけに、食べ続けていると女子は色白のえらい別嬪になるそうだ。昔の唐土(モロコシ)では則天武后なんてえ、権力を独り占めにした恐ろしい女帝がいたが、この女は色黒で容色のさえない女だったから皇帝さんは、はじめは見向きもしなかったそうだ。ところがツバメの巣を食べ続けていると、段々目立つようになり皇帝の寵を受けえらい権力を持つようになったんだそうだ。 それから、唐の玄宗皇帝に愛された楊貴妃とう絶世の美人も死ぬまで食べ続けていたというしろものよ。 ツバメの巣は『燕窩』とも言われるそうだ。そいつはそんじょそこいらで見つかる代物ではねえんだぜ、俺が言っているツバメの巣は、おめえの軒先にあるツバメの巣じゃなねえんだよ。こりゃあ、アナツバメといってな、遠い南方の大きな洞窟のなかで暮らしているツバメ巣のことだ。 このアナツバメてえのは、そりゃ、てえしたもんらしいぜ。何しろ何万羽ものアナツバメが空はもちろんのこと、真っ暗闇の洞窟の中も自由自在に飛び回り、蚊のような小さな虫を捕って食べながら夜も昼も飛んでいるのさ」

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