新宿ツバメ亭

新宿ツバメ亭

大工の八と左官の熊2

「ツバメの巣なんざあ、珍しくもなんともないぜ、俺の長屋の軒下に何年もあるぜ。泥と藁くずで作った、小汚い物でよ、片付けちまおうと思ったら、おフクロが『燕が巣を作るところには福がある』って言うんだよ、『良いことがあるから、滅多なことでツバメの巣を壊したりしたら大変な天罰が当たるよ』と言いやがるもんだから、そのままにしといたんだが、ツバメてえものは不思議な鳥だぜ。秋になると空家になるツバメの巣へ、次の年の夏近くなるとやつらは、は毎年忘れず律儀に帰って来るんだよ。どうして方向がわかるんだろうな。地図も持ってないくせに。てえしたもんだな。ツバメてえものは偉い鳥だな。」
自慢じゃねえが、俺は方向音痴さ

「俺なんざあ、こないだ久しぶりに伯父さんの家へ挨拶に行こうと思って家を出たが、橋を渡ったあたりから、皆目方向がわからねえ。それにあっちこっち新しい普請で、見慣れねえ建物が出来ているもんだから一層わかりにくくなっているのさ。あっちで聞いてこっちで尋ねて、迷いに迷ってやっと伯父さんの家にたどり着いたが、暫く来なかったじゃないかと、散々小言ばかり言われて、クサクサしながら帰ってくると、今度は俺の家へ帰る道ががわからねえ、さんざん歩き回って帰ってくると、軒下のツバメの巣から、ツバメの子供たちが、ゲラゲラ笑いながら俺を見下ろしているんだぜ。悔しいたらねえや。あの土のツバメの巣が美味い物なら食っちまいたいな。あれが本当に食えるのかい、とってもそうは見えないがな。」

続き

大工の八と左官の熊         

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