一緒に下山して次の目的地、檜枝岐まで早く行けば良かったが、若気の至りの無分別で「君は、荷物を預けた小屋で待っていてくれ、俺は一寸上を見に行ってくるから」と言って、友と別れ、懸命に頂上を目指した。
頂上には小さい石の祠と何基かのケルンがあるだけで殺風景なところだった。おまけに霧が回りを被い何も見えない。見回したところ登山者もいない。何となく不安になって、急いで下山にかかった、霧の中で来た道を間違わないように注意しながら大急ぎで下ると幸い迷わずに、荷物を預けた小屋に着いた。
友人は、山頂付近が霧に隠れ何も見えないのでとても心配していたそうである。
しかし、この日の行程はここで終わるわけではない。尚暫く歩いて檜枝岐まで到着しなければならない。二人は又、重い荷物を背負って歩き出した。道を蛇が横切ったり、ぬかるみに足を取られて転んだりしながら、真っ暗になるころやっと、その日の宿営予定地に到着した。もう既に幾張りものテントがあり中から光が漏れている。