平坦な、木道を通り景色を楽しみながら、数時間で何の苦労もなく、山の鼻小屋に到着した。
四苦八苦して湿原を渡った数年前が懐かしく思い出された。
早めに夕食を終わり、四人はテントの中でゴロゴロしながら話し合っていた。
このような気のあった友との旅行は楽しみの一つである。
昨日の強行軍を思うとまさに休養の時であった。誰かが、「おい、みんなの高校の校歌を歌ってみないか」という提案があり、それぞれが調子外れに母校の校歌を歌った。私も、うろ覚えの校歌を一杯飲んだ勢いで歌った。すると隣のテントから東京のM校の方が居られますかと言って、三人の高校生がやってきた。
彼は、われわれとは反対のコースをとって幕営しながら尾瀬を旅行しているとのことである。3年前にM高校校を卒業し今はW大の学生だというと、彼らは口をそろえて「先輩、ここでお目にかかれて光栄です」と言って頭を下げた。そう言われると黙っておれない。私たちが食べ残していた果物の缶詰を数個彼らに贈って「元気で楽しんでくれ」と先輩風を吹かして得意になった。
翌朝は、早朝にテントを片付け、至仏山の山登りにかかるが、Nの心臓のトラブルもなく至仏山の山頂まで登り、下りも順調に鳩待峠まで出た。
期待したバスが出たすぐ後だったので、バス道を歩いて鎌田まで下ることにした。
誰も居ない道を歩きながら、4人は大声で校歌や応援歌を歌いながら、下ってきた。
下り坂で、相変わらず空身のNは口数が多くすっかり元気になっていた。
東京へ帰ってからNは医者へ行って調べてもらったそうだが、胸が痛かったのは心臓疾患ではなく、肋間神経痛だったそうである。まず一安心というところだ。
学生時代、その後何度かSとWを誘って山へ行ったが、Nはその後、一度も誘わなかった。
梅雨時に言った、二度目の尾瀬も美しかった。尾瀬は、何時言っても素晴らしいのだろう。
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